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東京高等裁判所 昭和41年(行コ)14号 判決

控訴人(原告) 有限会社新貴亭

被控訴人(被告) 平塚税務署長

訴訟代理人 横山茂晴 外四名

主文

各原判決をいずれも取り消す。

各本件を横浜地方裁判所に差し戻す。

事実

控訴代理人は、「各原判決をいずれも取り消す。各本件をいずれも横浜地方裁判所に差し戻す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人の指定代理人は、「本件各控訴をいずれも棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、左記のほかは、すべて各原判決の事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は次のとおり主張した。

(一)、異議申立の日の翌日から起算して、三月を経過する日までに決定がなされないときは、異議申立は審査請求とみなされるのであるが、異議申立人は右の期間内に、みなす審査請求にしない旨の特段の意思表示をすることによつて、異議申立が審査請求に移行する効果を生ぜしめないことができるから、異議申立についての決定が判決によつて取り消された場合に、異議申立の日の翌日から三月を経過しているとの理由で、異議申立が当然に審査請求に移行するものと解することは、異議申立人からみなす審査請求を拒絶する機会を奪う結果となる。したがつて、本件各異議棄却決定が本訴において取り消されても、控訴人のなした各異議申立は、その申立の日の翌日から三月を経過しているとはいえ、いずれも審査請求とみなさるべきではなく、被控訴人は改めて本件各異議の申立についてそれぞれ決定をしなければならないのである。

(二)、行政不服審査法第四一条第一項、第四八条によれば、異議申立についての決定、審査請求についての裁決には、いずれも理由を附記すべきことを命じているが、これは不服申立人をして決定、裁決における行政庁の判断の根拠、経過を理解せしめ、後日の争訟における十分な攻撃防禦を保障するとともに、行政庁の判断の適正を確保する趣旨にでたものである。したがつて、本件の如く、原処分に対し異議申立と審査請求の二個の不服申立方法が認められている場合においても、行政庁は各不服申立の段階において、十分なつとくのできる理由を附記した決定、裁決をなすべきであるから、本件各異議棄却決定の理由附記に不備の違法がある以上、本件各異議棄却決定はいずれも違法であつて取消を免れないものであり、仮りに審査請求についての裁決に十分な理由が附記されているとしても、そのことは本件各異議棄却決定に存する前記の瑕疵を治癒せしめるものではない。

(三)、行政不服審査法第四三条第一項の規定は、裁決がなされた後は、関係行政庁は裁決によつて確認または形成された法律関係に従つて処理しなくてはならない旨定めたものにすぎないのであつて、これによつて先になされた治癒することのできない法律上の重大な瑕疵までがなくなつてしまうとか、これを不当に救済するための規定ではない。本件各異議棄却決定が判決によつて取り消されたときは、被控訴人は、改めて、法の定める要件に適つた理由を附記した決定をなすべきであり、控訴人において右新たな決定を容認できないときは、更に審査請求をするが、この段階で、前記四三条第一項の関係行政庁に審査庁も含まれるわけであるから、既になした裁決と同じ判断をくり返すような場合は、同一の結論を維持する旨明らかにすればよいことになる。したがつて、行政事件訴訟法第三三条第一項の規定がまづ適用され、行政不服審査法第四三条第一項の規定が優先して適用されるものではないと解すべきである。

被控訴人の指定代理人は、次のとおり主張した。

(一)、控訴人は、本件各異議棄却決定が判決によつて取り消された場合に、異議申立が審査請求とみなされるとすれば、異議申立人のみなす審査請求を拒否する権利が害されると主張するが、異議申立人である控訴人が所定の期間内に税務署長に対し別段の申出をしていない以上、異議申立が審査請求とみなされるのは止むを得ないところである。もし、税務署長に対する別段の申出がなくとも、みなす審査請求にならないとすれば、異議申立人としては審査請求とみなされる機会を奪われ、反つて、事案の急速な処理の面で不利益を受けることとなる。

(二)、仮りに、控訴人の主張するように、本件各異議棄却決定が判決によつて取り消された場合、異議申立が審査請求とみなし得ないとしても、控訴人はすでに原処分に対し審査請求をなし、これについて実体的裁決を受けているのであるから、本件各異議棄却決定の取消を求めることはできない。なんとなれば、異議棄却決定が判決で取り消された後、税務署長があらためて理由を附記した決定をしても、すでに審査庁において原処分を維持する旨の実体的裁決をなしている以上、再度の異議決定に対してなされる審査請求については、審査庁としてはこれを却下せざるを得ないわけであるから、本件各異議棄却決定を理由附記の不備を理由に取り消す意味がないからである。原処分の違法でないことが判決で確定している場合に、審査決定について手続上の理由で取消を求めることが許されないのと同様(最高裁判所昭和三七年一二月二六日判決)、審査の裁決に十分な理由の附記があるときは、異議申立についての決定に理由附記の不備があつても、その取消を求め得ないと解すべきである。

(三)、また、本件各異議棄却決定が、理由附記の不備を理由として判決によつて取り消されたとしても、審査請求についての裁決に十分な理由が示されている以上、被控訴人はこれと同一の理由を示せば足りるのである。したがつて、本件各異議棄却決定を取り消し、改めて理由の附記を求めることは、法律上無意味であり、ひいては本件各異議棄却決定の取消を求める利益がないといわなければならない。本件各原処分に対する控訴人のなした審査請求を棄却する裁決には、その判断の理由が詳細に附記されているのであるから、本件各訴はいずれもその利益がなく、不適法として却下すべきである。

理由

被控訴人がいずれも昭和三九年三月二一日付で控訴人に対し、(イ)、昭和三五年五月一日から昭和三六年四月三〇日までの事業年度分法人税額等の更正処分および加算税の賦課決定処分、(ロ)、昭和三六年五月一日から昭和三七年四月三〇日までの事業年度分法人税額等の更正処分および加算税の賦課決定処分、および(ハ)、昭和三七年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの事業年度分法人税額の更正処分および加算税の賦課決定処分をしたこと(以下、上記(イ)、(ロ)、(ハ)の各処分を本件各原処分という)、控訴人がいずれも昭和三九年四月二一日付で被控訴人に対し、本件各原処分につき控訴人主張のような各不服事由を以てそれぞれ異議の申立をなしたところ、被控訴人において、いずれも同年六月二六日付で、それぞれ右各異議申立を棄却する旨の各決定(以下本件各決定という)をなしたこと、控訴人が東京国税局長に対し、本件各決定後の本件各原処分につき、それぞれ右各異議申立におけると同一の不服事由を含む審査請求をなしたところ、東京国税局長がいずれも昭和四〇年七月二九日付で、上記(イ)および(ロ)の原処分に対する審査請求については、それぞれ棄却の裁決を、上記(ハ)の原処分に対する審査請求については、同年九月一七日付で「原処分のうち金四九〇、〇八〇円の部分を取り消し、その余の金一、七二五、二四六円についての審査請求を棄却する。」旨の裁決をなしたこと、以上の各事実はいずれも当事者間に争がなく、いずれも成立に争のない各乙第七号証の各記載によれば、前記各審査請求はいずれも昭和三九年七月二二日になされたことが明らかである。

本件各原処分は、税務署長である被控訴人が、いずれも国税に関する法律である法人税法および国税通則法に基づいてなした所得税額等の更正処分であるから、国税通則法第七六条第一項、第七九条第三項の各規定の定めるところにより、控訴人は被控訴人に対し異議申立をすることができ、異議申立についての決定があつた場合において、右決定を経た後の原処分になお不服があるときは、国税局長に対し審査請求をすることができるところ、異議申立についての決定または審査請求についての裁決に、手続上の違法その他固有の瑕疵が存する場合には、これらの違法を理由として、右決定または裁決の取消訴訟を各別に提起し得ることは、行政事件訴訟法第三条第三項、第一〇条第二項の各規定などに照し明らかである。

被控訴人は、本件各決定が判決によつて取り消されたときは、異議申立の段階に戻るところ、本件各異議申立は、その申立の日の翌日から既に三月を経過しているから、国税通則法第八〇条第一項第一号により、いずれも審査請求とみなされる旨主張する。異議棄却決定が判決によつて取り消されたときは、取消判決の効力により、異議棄却決定はその効力を失い、異議棄却決定のなかつた状態に復帰するものと解すべきことは、被控訴人の主張するとおりである。国税通則法第八〇条第一項第一号には、異議申立の日の翌日から三月を経過する日までに、異議申立についての決定がなされないときは、異議申立は審査請求とみなされる旨定められている。右規定が、異議申立が三月の経過によつて審査請求に移行するものとした趣旨は、次のように解せられる。すなわち、国税に関する法律に基づいて税務署長がなした所得税額等の更正処分に対しては、先づ異議申立をなし、異議申立についての決定を経た後、審査請求をなすべきものとされていることは前記のとおりであり、しかも国税通則法第八七条第一項は、国税に関する法律に基づく処分で不服申立をすることができるものの取消を求める訴は、原則として、異議申立および審査請求をなし、その決定および裁決を経た後でなければ、これを提起することができない旨定めているから、もし原処分庁である税務署長において異議申立についての決定を遅延するにおいては、異議申立人は審査請求はもちろん、原処分の取消訴訟も提起することができないばかりか、同法第八四条第一項の規定によれば、異議申立は原処分の効力、原処分の執行または手続の続行を停止する効力がないのであるから、異議申立人は、異議申立についての決定が遅延することにより、不測の損害を蒙むる虞なしとしない。国税通則法が、右の如く、原処分に対し異議申立と審査請求の二段階の不服申立を認め、審査請求は異議申立についての決定を経た後でなければすることができない旨、および原処分の取消訴訟は異議申立についての決定および審査請求についての裁決を経た後でなければ提起できない旨定めながら、異議申立についての決定が遅延した場合の措置を構じないのは、不合理であるのみならず、異議申立人の不利益をかえりみないこととなるから、国税通則法第八〇条第一項第一号は、かかる不合理を是正し、決定の遅延によつて異議申立人の蒙むることあるべき不利益を救済する趣旨にでたものと解することができる。また、異議棄却決定が判決によつて取り消された場合に、すでに審査請求についての裁決があつたのに拘わらず、異議申立の日の翌日から起算して三月を経過していることにより、異議申立が当然に審査請求を移行するものと解するにおいては、行政事件訴訟法が、前記の如く、異議申立についての決定自体の取消訴訟を認め、かつ取消判決の効力として、異議決定庁に対し、判決の趣旨に従い、改めて異議申立に対する決定をなすべきことを義務づけた同法第三三条第二項の規定の趣旨は抹殺され、その結果、当事者の権利が不当に侵害される結果ともなる。これらのことを合せ考えると、国税通則法第八〇条第一項第一号の規定は、一たん異議申立についての決定がなされ、右決定後の原処分に対し審査請求があり、それについての裁決がなされた場合には、たとえ、その後に異議申立についての決定が判決によつて取り消されたとしても、もはやその適用の余地はないものと解するのが相当である。本件では、上記認定の如く、控訴人は本件各原処分に対し異議申立をなし、本件各決定を経た後、更にそれぞれ適法な審査請求をなし、かつ、これについて東京国税局長の実体的な裁決がなされたのであるから、本件各決定が判決によつて取り消されたとしても、控訴人のなした各異議申立は、その申立のときから既に三月を経過しているとはいえ、審査請求に移行するものではないと解するを相当とする。本件各決定が判決によつて取り消されたときは、本件各異議申立はいずれも審査請求とみなされるとなす被控訴人の前記主張は採用できない。したがつて、右主張を前提とし、本件各訴はいずれもその利益がないとなす被控訴人の本案前の抗弁は、いずれも理由のないことが明らかである。

行政不服審査法第四一条第一項は、審査請求についての裁決には理由を附記すべき旨規定し、同法第四八条は右規定を異議申立についての決定に準用すべき旨定めているから、本件の如く、原処分に対し異議申立と審査請求の二段階の不服申立方法が認められているような場合でも、異議申立についての決定および審査請求についての裁決には、それぞれ法所定の要件を満たした理由を附記すべきものといわなければならない。ところで、前記各法条が異議申立についての決定、審査請求についての裁決に、理由を附記すべきものとしたのは、決定庁または裁決庁の判断の慎重、公正を保障するとともに、不服申立人をして決定庁または裁決庁の判断に到達した理由を了知せしめて、不服申立の当否について、さらに再考する機会を与えると共に、さらに不服であるとして訴訟で争うものについては、争点を明確にさせるという趣旨にでたものと解せられる。したがつて、異議棄却決定の理由附記の不備は、決定固有の違法として、右決定の取消原因となるべき瑕疵に該るものと解すべきであるから、たとえ、その後になされた審査請求についての裁決において、法所定の要件を満たした理由が附記されているとしても、そのことは、異議棄却決定自体に存する前記瑕疵を当然に治癒するものではないといわなければならない。それ故、このことと、左記の判示とを合せ考えれば、本件各決定の理由附記に不備の違法が存するときは、控訴人は、右違法を理由として、本件各決定の取消訴訟を提起し得るものというべきである。

異議棄却決定が判決によつて取り消された場合には、異議決定庁は、行政事件訴訟法第三三条第二項の規定により、取消判決の趣旨に従い、改めて異議申立について決定をしなおさなければならない立場に至るのであるが、この場合、すでに審査請求について棄却の裁決がなされておつても行政不服審査法第四三条によれば、棄却の裁決には下級行政庁を拘束する効力はないと解すべきであるから、異議決定庁は改めて異議申立についての決定をなすに当り、棄却の裁決に拘束されることなく、原処分の当否の点について判断することはもちろん、原処分に不当の点ありと判断するときは、その取消または変更をなし得るものといわなければならない。本件では、すでに認定したとおり上記(イ)および(ロ)の各原処分に対する審査請求については、いずれも棄却の裁決が、上記(ハ)の原処分に対する審査請求については、原処分のうち金四九〇、〇八〇円の部分につき審査請求を認容して、右部分を取り消し、その余の金一、七二五、二四六円を正当として、この部分についての審査請求を棄却する旨の裁決がなされたのであるから、本件各決定が判決によつて取り消されたときは、異議決定庁である被控訴人は、改めて本件各異議申立について決定をなすに当り、本件各原処分(ただし、上記(ハ)の原処分のうち金四九〇、〇八〇円の部分は、裁決によつて取り消されたから失効し、金一、七二五、二四六円の限度で)について、その当否の判断をなし、もし不当の点のあることを発見したときは、その取消または変更をなさなければならないことはもちろんである。ことに、本件各決定が、その理由附記に不備の違法があるとして、判決によつて取り消されたとすれば、被控訴人は改めて本件各異議申立について法所定の要件を満たした理由を附記した決定をなすべきことを義務づけられるのであるところ、異議申立は原処分を不服とする者の行政上の争訟手続として認められたものであり、かつ、異議申立についての決定に附記すべき理由は、前記の如く、異議申立入をして決定庁が原処分の当否の判断に到達した理由と根拠とを了知せしめるに足る程度に明示することを要求されているものであるから、異議決定庁が改めてなす決定に法所定の要件を満たす理由を附記するためには、原処分の当否についての判断にまで立入らなければ、とうていよくなし得るところではないものと考えられる。そうだとすれば、本件各決定が理由附記の不備を理由として判決によつて取り消されることにより、控訴人は、被控訴人によつて、再度、本件各原処分の当否についての判断を受け、場合によつては、その取消または変更の決定を受け得る機会があり得るものといわなければならない。右の如く、本件各決定が判決によつて取り消されることにより、控訴人が本件各原処分の取消または変更の決定を受け得る機会があり得る以上、本件各訴は、いずれも法律上の利益があるものと解するのが相当である。もつとも、理由附記の不備を理由とする異議棄却決定の取消判決は、原処分の当否の判断についての拘束力を有しないのであるから、仮りに、本件各決定が理由附記の不備を理由に取り消されたとしても、被控訴人をして当然に本件各原処分の取消または変更の決定をなすべきことを義務づける訳ではないし、また、被控訴人は、異議決定庁であると同時に、原処分庁でもあるのであるから、取消判決の有無に関係なく、本件各原処分の不当なることを発見したときは、その本来の権限に基づいて、本件各原処分の取消、変更をなし得るところである。しかし、被控訴人が、その本来の権限に基づいて、本件各原処分の取消または変更をなし得るとはいつても、本件の如き所得税額等の更正処分のように大量かつ集中的な処分にあつては、すでに審査庁において棄却の裁決がなされているときは、被控訴人が自ら進んで原処分の当否について再考を加えることを期待することは必ずしもよういでない。これに反し、本件各決定が理由附記の不備を理由として判決によつて取り消されるとすれば、被控訴人は、改めて、法所定の要件を満たした理由を附記した決定をなすべきことを義務づけられ、法所定の要件を満たした理由を附記するためには、前記の如く、本件各原処分の当否についての判断について、より慎重、適正になされるのであるから、取消判決のあつた場合は、取消判決のない場合に比し、抽象的には、被控訴人が本件各原処分の取消または変更をなすの機会がないとはいえない。したがつて、本件各決定を取り消すべき法律上の利益がないものと断定することは正当ではない。

被控訴人は、本件各決定が理由附記の不備を理由として判決によつて取り消された場合、被控訴人が改めて理由を附記した決定をしても、すでに本件各原処分を維持する旨の実体的裁決がなされている以上、再度の異議決定に対してなされる審査請求については、審査庁としては、これを却下せざるを得ないから、本件各決定を理由附記の不備を理由に取り消す利益がない旨主張する。しかし、被控訴人が改めて本件各異議申立について決定をした場合に、仮りに、被控訴人主張のように、控訴人が更に原処分につき審査請求をなし得るものと解するにしても、右審査請求は、再度の異議決定を経た後の原処分に対してなされたもので、新たな審査請求と解すべきであるから、すでに原処分を維持する旨の実体的裁決がなされていても、右裁決は新たな審査請求について審査庁を覊束する効力はなく、審査庁は、右新たな審査請求が適法である限り、これについて実体的裁決をなすべきであつて、被控訴人主張のように、先に実体的裁決のあることを理由に、これを却下することはできないものと解しなければならない。けだし、再度の異議決定を経た後の原処分に対して、更に審査請求をなし得ることを肯定する以上、すでに原処分に対する審査請求についての実体的裁決がなされていることを理由に、常にこれを却下すべきものとなすにおいては、再度の審査請求をなし得ることを否定するのと同じ結果になるからである。したがつて、再度の審査請求が、本件では、常に却下されるものであることを前提とする被控訴人の右主張は、それ自体に矛盾があるのみならず、本件では、上記のように、被控訴人が本件各異議申立について改めて決定をしなおすに当つては、原処分の当否について判断を加え、場合によつては原処分の取消または変更の決定をしなければならない場合があり得る以上、再度の異議決定を経た後の原処分につき更に審査請求をなし得ると否とに関係なく、すでにこの点において本件各決定の取消を求める法律上の利益があるものというべきであるから、被控訴人の前記主張は理由がなく、採用できない。また、被控訴人は、本件各決定が理由附記の不備を理由として判決によつて取り消されたとしても、本件審査請求についての各裁決に十分な理由が示されている以上、被控訴人は、改めてなす決定には、右裁決に附記されたと同一の理由を附記すれば足りるから、本件各決定を取り消し、改めて理由の附記を求めることは法律上無意味であつて、本件各決定の取消を求める利益がない旨主張する。しかし、すでに説明したとおり、本件各決定が理由附記の不備を理由として取り消されたときは、被控訴人は改めて本件各異議の申立について法所定の要件を満たした理由を附記した決定をなすべきであり、法所定の要件を満たした理由を附記するためには、原処分の当否について再考を要するものとすれば、原処分の当否について必ずしも本件各裁決に示された判断と同一の結論に到達するものとは限らない。被控訴人が原処分の当否について再考した結果、本件各裁決の判断と同一の結論に達した場合には、被控訴人の主張するとおり、本件各裁決に附記されたのと同一の理由を附記した決定をなし得る場合のあることは否定し得ないが、その判断を異にするときは、本件各裁決に附記された理由を引用して附記することができないのは当然である。したがつて、被控訴人が改めてなす決定に附記すべき理由が必ずしも本件各裁決に示された理由と同一のものたり得ない場合のある以上、たとえ本件各裁決に十分な理由が附記されているとしても、本件各決定を理由附記の不備を理由として取り消すことは、被控訴人主張の如く、法律上無意味なこととはいい得ないから、被控訴人の右主張も採用しがたい。

以上のとおりとすれば、本件各決定の理由附記に不備の違法があるとして、本件各決定の取消を求める控訴人の本件各訴は、いずれもその利益があるというべきであるから、本件は、いずれも本件各決定の理由附記が法所定の要件を満たしたものであるかどうかについて、審理、判断を遂げた上、その請求の当否について各本案の判決をなすべきものといわなければならない。

右と結論を異にし、本件各訴をいずれも利益がないとして却下すべきものとなした各原判決は失当であつて、本件各控訴はいずれも理由があるから、民事訴訟法第三八六条、第三八八条に従い、各原判決を取り消し、各本件を原裁判所である横浜地方裁判所に差し戻すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 村松俊夫 土井王明 兼築義春)

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